2021年1月15日金曜日

今だから話そう「幾何の問題・正解集」





《幾何の問題正解集》
[提示問題とは]
三角形ABCにおいて、∠Bと∠Cの二等分線が辺AC、辺ABと交わる点をそれぞれD、Eとするとき、BD=CEであるという。このとき、三角形ABCは二等辺三角形であることを証明せよ


証明(クリックする)
解答者
解答日時
「三好解」  三好 彰氏 1994-01-31 08:09
「船津解1」  船津 剛男氏 1994-01-31 13:30
「船津解2」  船津 剛男氏 1994-02-02 09:15
「井上解」  井上 徹夫氏 1994-02-14 19:28
「北條解」  北條 尚志氏 1995-01-11(by郵便)
「大野解1」  大野 典昭氏 2002-4-13 7:21
「大野解2」  大野 典昭氏 2002-10-20 10:54
「大野解3」  大野 典昭氏 2002-10-26 11:56
「出題者解」  木下 恂 1994-01-27 14:19











































[三好解]
△ABCの∠Bの二等分線と辺ACとの交点をD、∠Cの二等分線と辺ABとの交点をEとする。BD=CEが与件。
△ACEの外接円と、△ABDの外接円の交点をFとする。円周角∠Aに対応する辺CEと辺BDが等長(与件)なので、二つの円は同じ大きさ。
FDが円ACEと交わる点をGとする。またFEが円ABDと交わる点をHとする。1つの円弧に対応する角度は同じなので、次のようになる。
∠AFG=∠AFD=∠ABD=1/2 ∠B     (1)
∠AFH=∠AFE=∠ACE=1/2 ∠C     (2)


四角形AEFGは円ACEに内接するので、∠GAE+∠EFG=180゚となり、
∠GAD=180゚-∠A-∠AFE-∠AFG=180゚-∠A-1/2(∠B+∠C)
一方、180゚=∠A+∠B+∠Cなので、
∠GAD=1/2(∠B+∠C)

四角形ADFHは円ABDに内接するから、∠HAD+∠DFH=180゚となり、
∠HAE=180゚-∠A-∠AFH-∠AFD=180゚-∠A-1/2(∠B+∠C)
=1/2(∠B+∠C)
よって ∠HAE=∠GAD
ゆえに、∠A+∠HAE+∠GAD=∠A+∠B+∠C=180゚となり、
点G,A,Hは一直線上にある。

円ACEと円ABDが同じ大きさであるので、辺AFに対応する円周角は等しくなり、
∠G=∠H
ゆえに△FGHは二等辺三角形である、つまりFH=FG
辺FHと辺FGに対応する円周角は等しいので、
∠HAF=∠GAF=90゚となる。
よって、∠AFH=∠90゚-∠H=∠90゚-∠G=∠AFG
(2)から∠AFH=1/2 ∠C、(1)から∠AFG=1/2 ∠B
なので、∠C=∠Bとなる。










































[船津解1]
1.頂点CからBDに平行線を引き、ABの延長線と交わる点をFとする。
2.頂点BからCEに平行線を引き、ACの延長戦と交わる点をGとする。


3.1.→ ∠ABD=∠BFC、∠DBC=∠BCF
  ゆえに、△BCFは2等辺三角形であり、BC=BF
4.同様に、△BCGは2等辺三角形であり、BC=CG
5.上記→ BD:CF=AB:AB+BC→BD=CF/(1+BC/AB)
6.同様に、CE:BG=AC:AC+BC→CE=BG/(1+BC/AC)
7.∠ABC<∠ACBであると仮定すると、
  △BCDと△BCEに於て、∠ABC<∠ACBであるから、AB>AC
  △BCFと△BCGに於て、∠CBF>∠BCGであるから、CF>BG
8.従って、
  BD=CF/(1+BC/AB)>BG/(1+BC/AB)
    >BG/(1+BC/AC)=CE すなわち、BD>CE
9.同様に、∠ABC>∠ACB であると仮定すると、BD<CE
  また、 ∠ABC=∠ACB であると仮定すると、BD=CE

従って、BD=CEならば、∠ABC=∠ACBとなり、△ABCは2等辺3角形










































[船津解2]
 以下、記述を簡単にするために、記号を用いる。

 頂点A、B、Cの各対辺の長さを、a、b、cと表す。
 頂点B、C、の各角度を、2α、2βと表す。
 角B、Cの2等分線の長さを、x、yと表す。


 問題は、「x=yであれば、α=βである」を証明することである。

証明:
0.α≧(1/2)πの場合は、明らかにy>a>xである。
  よって、α<(1/2)πの場合について証明できればよい。
1.△ABCの面積=底辺の長さx高さ=(1/2)acSin2α
2.△ABCの面積=△ABDの面積+△CBDの面積
          =(1/2)(cxSinα+axSinα)
3.Sin2α=2SinαCosα
4.1、2、3より、x=2Cosα/(1/a+1/c)
5.同様にして、 y=2Cosβ/(1/a+1/b)
6.もし、α>βならば、Cosα<Cosβ、b>cであるから、
  x=2Cosα/(1/a+1/c)
   <2Cosβ/(1/a+1/c)
   <2Cosβ/(1/a+1/b)
   =y
  すなわち、 α>βならば、x<y
7.同様にして、α<βならば、x>y
8.明らかに、 α=βならば、x=y
9.従って、  x=yならば、α=β であり、△ABCは2等辺3角形

 証明終わり










































[井上解]
 三角形ABCでBD,CE(角の2等分線)を長さm、BEの長さをb、CDの長さをa、底辺の長さc、DEの長さをd、角ABC、ACBの二等分角の大きさをそれぞれα、βとすると、

  a2=m2+c2-2cmcosα ‥‥‥(1)
  b2=m2+c2-2cmcosβ ‥‥‥(2)
  d2=m2+b2-2bmcosα ‥‥‥(3)
  d2=m2+a2-2amcosβ ‥‥‥(4)

(1),(2)より、
  cosα=(m2+c2-a2)/(2cm) ‥‥‥(5)
  cosβ=(m2+c2-b2)/(2cm) ‥‥‥(6)

(5),(6)を(3),(4)に代入して、
  d2=m2+b2-2bm(m2+c2-a2)/(2cm) ‥‥‥(7)
  d2=m2+a2-2am(m2+c2-b2)/(2cm) ‥‥‥(8)

(7),(8)から
  b2-b/c(m2+c2-a2)=a2-a/c(m2+c2-b2)

これを変形すると、
  (a-b){c2-(a+b)c+(m2+ab)}=0 ‥‥‥(9)

従って、a=b ‥‥‥(10)
または、c2-(a+b)c+(m2+ab)=0 ‥‥‥(11)
ということになりますが(11)の判別式は

  D=(a+b)2-4(m2+ab) =(a-b+2m)(a-b-2m) ‥‥‥(12)

ここで、3角形の2辺の和は他の1辺より長い(a+m>c, b+m>c, c+m>a, c+m>b)
ことを利用して、

  a-b+2m=(a+m)-b+m>c-b+m=(c+m)-b>0 ‥‥‥(13)
  a-b-2m=a-m-(b+m) 即ち、D<0で、(9)が成り立つためには、a=b。

従って、3辺の等しい3角形の合同からα=βが導かれ、元の3角形が二等辺3角形であることが証明できます。










































[北條解]
BD=CEならば、∠B=∠Cを証明する。


【証明】
BD,CEの交点をFとする。
 α=1/2∠A
 β=1/2∠B
 γ=1/2∠C
 Fからの垂線の長さをr
とすれば

 BF=r・sec(α+γ)
 FD=r・sec(α-γ)
∴BD=r・{sec(α+γ)+sec(α-γ)} ‥‥(1)

 CF=r・sec(α+β)
 FE=r・sec(α-β)
∴CE=r・{sec(α+β)+sec(α-β)} ‥‥(2)

(1),(2)から
∴BD=CEならば、γ=β

∴∠B=∠C
【証明終】










































[大野解1]

①BD/sin(2γ)=a/sin(β+2γ)
 CE/sin(2β)=a/sin(2β+γ)

②sin(2γ)/sin(2β)
 =sin(β+2γ)/sin(2β+γ)
 = (sinβcos2γ+cosβsin2γ)
  /(sin2βcosγ+cos2βsinγ)

③ sin2γsin2βcosγ+sin2γcos2βsinγ
 -sin2βsinβcos2γ-sin2βcosβsin2γ=0

④ 4sinγcosγsinβcosβcosγ
 +2sinγcosγ(cosβ2-sinβ2)sinγ
 -2sinβcosβsinβ(cosγ2-sinγ2
 -4sinβcosβcosβsinγcosγ=0

⑤ sinβ2・sinγ2(cosβ-cosγ)
 -2sinβ・cosβ・sinγ・cosγ(cosβ-cosγ)
 -cosβ2・sinγ2・cosγ
 +sinβ2・cosγ2・cosβ=0

⑥ sinβ2・sinγ2(cosβ-cosγ)
 -2sinβ・cosβ・sinγ・cosγ(cosβ-cosγ)
 -cosβ2・(1-cosγ2)・cosγ
 +(1-cosβ2)・cosγ2・cosβ=0

⑦ sinβ2・sinγ2(cosβ-cosγ)
 -2sinβ・cosβ・sinγ・cosγ(cosβ-cosγ)
 +cosβ2・cosγ2(cosβ-cosγ)
 +cosβ・cosγ(cosβ-cosγ)=0

⑧{(sinβsinγ-cosβcosγ)2+cosβcosγ}
 *(cosβ-cosγ)=0

→  coSγ=cosβ    0<β、γ<90度
   γ=β
   C=B

となります。










































[大野解2]
仮定:三角形ABCで∠Bと∠Cの二等分線、BE=CF
結論:∠B=∠C

証明:これを直接示す代わりに、対偶の ∠B≠∠C ⊃ BE≠CF を示す。

一般に三角形ABCで、次が成り立つ。
  AB≧AC ならば ∠B≦∠C (複合同順)であり、逆も成り立つ
  △ABCの内部に点Pをとると、∠BPC>∠BAC

また、円周上の点ABCDEには、次のような関係がある。

   ∠ACB=∠ADB<∠ADE

証明の道筋:∠B<∠C として、CF<BE を示す。

記号を次のように定める。
  E:∠Bの二等分線とACとの交点
  F:∠Cの二等分線とABとの交点
  I:内心(BEとCFとの交点)
  P:EP∥FC、CP∥FEなる点
  Q:3点F,E,C を通る円と線分BCとの交点
(BとCとの中間またはその延長線上にくる(CBの延長線上にはこない)*)
  β:∠B/2
  γ:∠C/2
  ε:∠FEI(=∠FEB)
  ζ:∠EFI(=∠EFC)
すると、次のような関係がある。
  CP=FE ‥‥‥①
  EP=FC ‥‥‥②
  0<β<γ<∠R ‥‥‥③
  0<β+γ<∠R ‥‥‥④
  ∠EPC=∠EFC ‥‥‥⑤

証明:εとζの大きさにより、場合を2つに分ける。
Ⅰ.ε≦ζ(∠IEF≦∠IFE)
  △IEFで、ε(=∠IEF)≦ζ(=∠IFE) であるから
    IF≦IE。
  また、△IBCで、β(=∠IBC)<γ(=∠ICB) であるから
    IC<IB。
  すなわち
    CF(=IF+IC)<BE(=IE+IB)。
 これは求めるものである。

Ⅱ.ε>ζ(∠IEF>∠IFE) ‥‥‥⑥
(証明の道筋:△EBPで∠EBP<∠EPBを示すことにより、EP<EBを示す。
         そのため、FE<BPを示す。)
1.(*)QがCBの延長線上にはこないことを示す。
  もしも、QがCBの延長線上であると、EBの延長線上に○FECQとの交点がある。
  この交点をXとすると、
    ∠FXE<∠FBE(=β)  (Bは△FXEの辺EX上)
    ∠FXE=∠FCE(=γ)。 (FECXは同一円上:円周角不変)
  これは、仮定③β<γ に反する。

2.△FBEでFE<FBを示す。
  QがBC上にある場合と、BCの延長線上にある場合に分けて考える。
(1)QがBC上にある場合
  次の関係がある。
    ∠EBC(=β)<∠EQC  (QはBC上)
    ∠EQC=∠EFC(=ζ)  (FECQは同一円周上)
  すなわち
    β<ζ ‥‥‥⑦
  ⑥と⑦から
    β<ζ<ε ‥‥‥⑧
  △FBEで、
    ∠FBE(=β)<∠FEB(=ε)
  であるから、
    FE<FB。 ‥‥‥⑨
  これが求めるものである。

(2)QがBCの延長線上にある場合
  次の関係がある。
    ∠EBC(=β)<∠ECQ  (QはBCの延長線上)
    ∠ECQ=∠EFQ      (FEQCは同一円周上)
    ∠EFQ<∠EFC(=ζ)  (FC<FQ)
  すなわち
    β<ζ ‥‥‥⑩
  ⑥と⑩から
    β<ζ<ε ‥‥‥⑪
  △FBEで、
    ∠FBE(=β)<∠FEB(=ε)
  であるから、
    FE<FB。 ‥‥‥⑫

3.□BFECでFE<BCを示す。
  まず、△BFCでBF<BCを示す。
    ∠BFC=2∠R-2β-γ
  であるから、④β+γ<∠R を考慮に入れて、
    γ<∠BFC。
  すなわち
    BF<BC。 ‥‥‥⑬
  ⑨と⑫、そして⑭より
    FE<BC。 ‥‥‥⑭

4.△EBPで EP<EB を示す。
△CBPにおいて、①CP=FEと ⑭FE<BCから
    CP<CB。
  すなわち
    ∠CBP<∠CPB。 ‥‥‥⑮
  △EBPにおいて
    ∠EBP=∠EBC+∠CBP
    ∠EPB=∠EPC+∠CPB
であり、⑤⑧⑪⑮から
    ∠EBP<∠EPB。 ‥‥‥⑯
  すなわち
    EP<EB。 ‥‥‥⑰
すなわち
    CF<BE。 ‥‥‥⑱
これが求めるものである
以上










































[大野解3]


仮定:三角形ABCで∠Bと∠Cの二等分線、BE=CF
結論:∠B=∠C

証明:これを直接示す代わりに、対偶の ∠B≠∠C ⊃ BE≠CF を示す。

一般に三角形ABCで、次が成り立つ。
 AB≧AC ならば ∠B≦∠C (複合同順)であり、逆も成り立つ
 △ABCの内部に点Pをとると、∠BPC>∠BAC

また、円周上の点ABCDEには、次のような関係がある。

   ∠ACB=∠ADB<∠ADE
   ∠ABC<∠ABD<∠R ならば、AC<AD

証明の道筋:∠B<∠C として、CF<BE を示す。

記号を次のように定める。
  E:∠Bの二等分線とACとの交点
  F:∠Cの二等分線とABとの交点
  I:内心(BEとCFとの交点)
  P:○FEBとBCの延長線との交点
  Q:○FECとBC(の延長線)との交点

証明:∠IEFと∠IFEの大きさにより、場合を2つに分ける。
Ⅰ.∠IEF≦∠IFE
  △IEFで、∠IEF≦∠IFE であるから
  IF≦IE。
  また、△IBCで、∠IBC<∠ICB であるから
    IC<IB。
  すなわち
    CF(=IF+IC)<BE(=IE+IB)。
 これは求めるものである。

Ⅱ.∠IEF>∠IFE
点FEBを通る円と点FECを通る円の2つの円を考える。すると、○FEBと○FECとは、点E・点F以外では交わらない。
  (もしも点Rで交わるとすると、○FEBにおいて
    ∠FBE=∠FRE、
                 ○FECにおいて
    ∠FCE=∠FRE
   となり、∠FBE<∠FCEと矛盾する。)

以下、FC<FP<EB を示す。
ここで、○FECが線分BCと交わる点C以外の点Qが、BC上にある場合を考える。

まず、FC<FPを示すため、∠FPC<∠FCPを示す。
  ∠FPC<∠FCB<∠R   (CはBP上)
  ∠FCP=2∠R-∠FCB>∠R。
すなわち、∠FPC<FCP。
△FPCで、∠FPC<FCP であるから、
  FC<FP
が示された。

次に、FP<EBを示すため、∠FBP<∠EPBを示す。
  ∠FBP=∠FBE+∠EBP
      =∠FPE+∠EBP (○FEPB上の円周角)
      <∠FPE+∠EQC ★1(QはBC上)
      =∠FPE+∠EFC ★2(○FECQ上の円周角)
      <∠FPE+∠FEB (Ⅱの仮定)
      =∠FPE+∠FPB (○FEPB上の円周角)
      =∠EPB
となり、∠FBP<∠EPBが示された。
また、∠EPBが∠Rより小さいことが次のように示される。
  ∠EPB=∠FPE+∠FPB
      <∠FPE+∠FCB
      =∠FBE+∠FCB
      <∠R。

○FEPB上で、∠FBP<∠EPB<∠R であるから、
  FP<EB
であることが示された。

すなわち、∠ABC<∠ACB であれば、FC<EB であることが示された。これが求めるものである。

なお、○FECが線分BCと交わるC以外の点QがBCの延長上であれば、上記の展開を次のように変えればよい。
    ★1  <∠FPE+∠ECQ
    ★2  =∠FPE+∠EFQ
以上










































[木下解]
 点EよりBCに平行な線を引きACとの交点をFとするとき、点Fの位置は、次のいずれかとなる。
 (1)AD上にある
 (2)Dと一致する
 (3)CD上にある

(2)の場合には、△DECと△EBDはともに二等辺三角形となるから、結果としてこの二つの三角形は(三辺が相等しくなり)合同となる。故に、∠Bと∠Cは等しいことが証明されたことになる。
 後は(1)と(3)の場合について、それぞれ矛盾することを導き、成立しないことを示せればよい。

 まず、∠B>∠C であると仮定する(逆の場合には三角形の左右を逆転させれば以下の議論がそのまま成立するので、こう仮定しても一般性は失われない)。

(1)の場合
 △ECBと△DBCにおいて、二辺の長さがそれぞれ等しく∠DBC>∠ECBであるから

  BE<DC …(a)

が成立する。
 一方、EFとBDの交点をD'とすると△EBD'と△FECはともに二等辺三角形になるので、

  BE=ED'>EF=FC>DC

となる。すなわち、

  BE>DC

である。これは、(a) と矛盾する。

(3)の場合
 点DよりBCに平行な線を引きABとの交点をGとするとき、△GBDと△FECはともに二等辺三角形で底辺の長さが等しいから、内角(たとえば∠GBDと∠FECとを比較して)の大きい方が斜辺の長さも大きくなる。したがって、

  GB=GD>EF=FC

となる。ここで、GDとEFは平行であり、三角形(△AGDと△AEF)の底辺をなしているから

  GD>EF

というのは明らかに矛盾である。
Q.E.D.


2020年12月29日火曜日

今だから話そう「人種差別」




── アメリカにおける人種差別


▼人種差別
 アメリカでは、黒人差別の問題が起こると“Black Lives Matter”(BLM)という表現を使って盛んにアピールするようになった。BLMは日本語に翻訳すると「黒人の命も大切だ」という意味になるらしい。何んとも、こなれていない訳ではある。

 「黒人の命“”大切だ」ではなく「黒人の命“”・・・」と表現するところが重要なのだそうである。“”では黒人以外の命は大切ではないのか?! と異論が出てくるから“”にしたのだという。日本語の表現でこんな議論がなされていると知ったらアメリカの人たちは驚くことであろう。

 英語の“Matter”は「問題」とか「重大な事」という意味だから「大切だ」とか「大事だ」と解釈しても構わないが、ここでは単に「○○問題」として固有名詞のままの方が自然で、かつ使い勝手も良くなるのではないかと思う。

 更に言えば、アメリカにおける人種差別では単に白人が黒人を差別するという単純なものばかりではなくもっと重層的である。同じ白人でもいろいろな人種が混じっている国だから白人間でも差別が存在する。人種とは関係なく貧富の差で差別されたり、差別される者が更に弱い者を見つけて差別するという場合もある。もちろん日本人も差別の対象となっている。

 つまりアメリカにおける人種差別では、すべての階層に渡って何らかの差別が存在している。それらは必ずしも命に係わるものばかりではなく、いじめや嫌がらせ、無実の罪に陥れるといったものまで様々なものが含まれている。そういうものを無視して“Black Lives Matter”と言って黒人への差別だけを取り上げるのはいかがなものかとも思う。したがって日本で言及するときは“黒人”も“命”も省いて単に「人種差別問題」と表現すべきではないかと思うのである。

 私が仕事でアメリカに長期滞在していた頃の体験では、差別の程度は今とたいして変らないように思う(差別に関する私の当時の感度が鈍かったのかもしれないが)。しかしトランプ大統領以降の、あのあからさまな差別的発言や差別的政策には正直、驚かされている。

 たとえば、警官による黒人への差別的な扱いは昔からあった。最近急に数が増えた訳ではない。今まで公になっていなかったものが暴露されるようになっただけのことである。これには日本人のある発明が寄与している。

 携帯電話の技術的進歩の過程でカメラ機能が付加されたのは日本人技術者の努力によるものである。スマホにカメラ機能が常備されるようになった結果、身近に起った出来事の多くは、たまたまその場に居合わせた人のカメラで撮影される機会が増えた。ちょっとした暴行事件でも簡単に映像データとして残されるようになった。

 それまで目撃証言と言えば、警察関係者からのものばかりだったから、事実が隠蔽されることが多かった。それがスマホのお陰で証拠が明るみに出るようになったのである。リアルな映像情報の存在は、想像以上に強力な決め手となることを我々は学んだのである。

▼私の体験したこと
 アメリカ生活が長くなりいろいろな体験を重ねる内に、気が付くと自分も同じように人を人種で区別し常に警戒的な目で見ていることに気が付いた。
 以下に、私の体験のいくつかを紹介してみよう。

(1)事例1
 私が滞在していた当時のソフトウェア会社や研究所などでは、技術者同士で議論をしていても黒人の技術者が席を外すと、残った白人がその黒人の悪口を言うという場面によく出くわしたものである。私はそれを聞いていて人種差別の一端に触れたような気がしていやな気持になったものだ。そして、もう少し仲良く出来ないものかと思ったりした。

 後から考えると、当時のアメリカのソフトウェア会社や研究所内の職場では滅多に黒人技術者の姿を見掛けることはなかったような気がする。黒人の女性事務員はよく見かけたが。これも人種差別の結果であることに気が付いたのは、その後十数年経ってからである。

(2)事例2
 研究所で仕事をしていた当時のことである。日本人技術者3人で夜遅く帰ろうとして駐車場に出て、自分の車の置いてある場所へ向かって歩いていた。夜も遅いので車の数も少なくなっていたので遠くから自分の車が見える。よく見ると車のボディーが何か変にキラキラと光っているようだ。不思議に思って近づくとリアウインドウのガラスがすべて粉々に打ち砕かれてなくなっているではないか。ガラスの破片がボディーの上や車内の後部座席の上一面に散らばっていた。暗くて破片がよく見えないので危険である。後部座席には乗れそうにない状態になっていた。

 昼間、車を駐車させたとき近くで黒人の若者たちがたむろしてこちらを見ていたのを思い出した。「やられた!」証拠はないが彼らの仕業に違いない。

 3人で使っている車なので、全員前の座席に座って私が仲間を順番に自宅まで送って行ったのを覚えている。レンタカー屋で借りた車だから事故保険に入っているので金銭的な被害はないからよいが、悔しい思いだけは残った。

 その他、昼休みに運動を兼ねて街中を歩いていると、遠くから黒人の子供達に石を投げられたこともある。そういうときはいちいち反応せずに無視するに限る。そういうことが度々起こると精神的にかなりタフでないと生きて行けないと思うようになる。そして自然に黒人には警戒心を持つようになっていった。気が付くと自分も差別心をもっていることに気が付いたのである。

 それまでは、夜帰宅してから家の近所をジョギングしたりしていたが、これは極めて危険な行為であることをアメリカの友人に教えられた。以後、夜の運動はしないことにした。

(3)事例3
 アメリカで生活するには常に車が必要である。長期間の滞在予定が決まっていれば車はリースで借りるのが費用の点で望ましい。しかし私のように技術者として派遣された場合は、滞在期間がはっきり決まっていないことが多い。プロジェクトの成否によって決まるからである。プロジェクトが突然打ち切られる場合もあるから長期間借りるのはかなりリスキーである。

 そこで私は、普通は1ヶ月単位でレンタカーを契約することにしていた(これは会社の指示でもあった)。毎月契約の切れる直前にレンタカー屋へ行って再契約していたのだ。車好きの人なら、いろいろな種類のアメ車に乗りたいと思うだろう。毎月異なる車を借りればよいのだからこんな贅沢な借り方はない。しかし私は仕事の方を優先しなければならない立場だから、安全運転のためには使い慣れた同じ車を使い続ける道を選んだのである。

 あるとき再契約に行くと、レンタカー屋の女性の係員が出て来て私の乗ってきた車をチェックすると言いだした。今までそんなことを要求されたことは一度もない。女性係員は外に出て来て私の乗ってきた車体の周りを一周して観察し始めた。そして「ここにキズがある」とか「ここにも擦った跡がある」と難癖を付け始めたのである。「それは借りたときからあった瑕だ」と主張しても一向に聞き入れようとしない。書類に細かく記入している。明らかに嫌がらせである。東洋人だと差別的に扱われることを私はしばしば経験していた。

 私は黙って見ていることにした。たとえ瑕が付いていても保険でカバーされるから少しも困らないと分かっていたからである。

 書類への記入が終わったところで、彼女は私の契約書を見てある項目を読んで慌てることになった。そこには“Full Coverage”(事故を起こしても全面的に保障される契約)という項目があり、その頭にチェック印が付いているのに気が付いたからである。

 彼女が今作ったばかりの書類をどう扱うか、私は黙って見ていることにした。作った書類が無駄になったときはその人の見ている前で破棄するのがルールである。彼女は悔しそうにその紙を破り捨てたのであった。私は「ザマ~みろ」と言いたかったがグッと堪えた。実は、そんな上品(?)な言葉の英語表現を知らなかったので、何も言えなかったのである。

 後で考えたのだが、あの時、日本語でよいから「ざまあみろ」と叫んでいたら、かなりの鬱憤を晴らすことができたのにと思った。私は、悔しいときは日本語で叫んで憂さを晴らすとよいことを、このとき学んだのであった。

▼企業人の注意すべきこと
 本稿ではアメリカにおける「人種差別」を取りあげた。この程度のことならなぜ今まで取りあげなかったのかと疑問に思う人がいるかもしれない。

 アメリカでの人種差別については、これまで私はエッセイの類いでは触れたことがない。それは企業人として触れてはならないテーマだったからである。その理由は、東芝のようなワールドワイドに事業を展開している会社の一員である以上は、他国の恥部に触れるようなことを書いてはいけないことになっていた。たとえ書く場所が社内報のような内輪のものであっても、現地法人に勤めているその国の人たちもまた会社の一員なのである。彼らが読んで気を悪くする可能性のある記事の取り扱いに関しては慎重でなければならない。

 そのために、社外に文書を発表する際は必ず会社の許可を得てから発表する規則になっている。
 最近のように、ネット上でSNS等に気楽に投稿する人が多い時代では、余計なことを“つぶやいて”何かと物議を醸して世間を騒がせている人が多いのは周知のとおりである。企業に属する方々は、社外に公開する文書の管理について増々扱い難くなる時代に生きていることを自覚し、油断なさらぬよう注意されたい。